壁の向こう側にあるもの。どうすれば見られるでしょうか。私が営業研修をする際に必ず受講者のみなさんにする質問です。事前に用意したいくつかある選択肢のなかでよく選ばれるのがこちら。
- はしごをかけて登る
- ハンマーで壁を破壊する
- 誰かに破壊してもらう
- 見ない
4は論外。何度か研修の機会をいただくと、一定の割合で「別に見たくないから」と答える方がいらっしゃいます。「見ない」という答えは間違いではありませんが、会社が費用負担している営業研修の場に来て「どうすれば見れるのか?」という質問に対しての回答としては、100点満点中0点ですね。
ただ面白いもので「やる気ないのかな?」と思っていたら、こういった方のほうがのちのち営業成績が伸びたりすることもあるので不思議です。「壁の向こうにたどり着く」という余計なプレッシャーがない分、顔に余裕がにじみ出ているのかもしれませんね。
壁の向こうを見る方法は他にもいろいろあります。フリー回答では、ダンプトラックで思い切りぶつかるとか、戦車を手に入れてふっとばすなんてツワモノもいます。ただ、ここで知りたいのは実は「どうやるかという方法」よりも、「誰がやるか」ということに注目しています。つまり自分でやるか、人にやってもらうかです。
どちらが正解か
質問を「誰がやるか」という方向に変えてみると、みなさんとても深く考え出します。自分でやるのか? それとも人にやってもらうのか? 当然、人にやってもらうのならそれなりの対価が必要になる場合がほとんどです。
たとえば戦車を手に入れて、人にやってもらうとなると「戦車」と「人件費」の2つのコストがかかってきますよね。
さてなにが正解かという話ですが、答えはいずれも正解。この質問でわかるのは「自分でやると答えるか、人にやってもらうと答えるか」、回答時の表情や発言などで、営業のスタイルや性格、思考スタンスがおおまかに見えてくるんですね。こういうの見抜くのは感覚的なものなので、はっきり言って経験がものをいいます。
一概に言えませんが、自分でやる人は猪突猛進で真っ直ぐストレートタイプ。人にやってもらう人は周囲を巻き込んでビジネスをしていくタイプ。
扱う商材によって個人の営業力のみが大きく影響する、ひたすら突破力だけで突き進むほうが圧倒的に利益率が高く、収益として高いという場合もありますし、周囲を巻き込みながらすすめたほうが事業スピードが速く、より大きな成果を生む場合もあります。
なのでどちらが正解、不正解はありません。あくまで思考と手持ちの予算をどのタイミングでどう使っていくかのスタンスの違いで、どっちのタイプもそれぞれの強みがありますから。
経験してわかること
ちなみに私の過去のスタンスは「自分でやる派」ですね。過去に中小企業の経営をしていたときは「自分でやる人」×22名の営業集団でした。社員もいましたが、業務委託社員やフルコミの社員もまざって毎日ガヤガヤ、まあ社長の言うことを聞かない我と意志の強い集団でしたね。
いま思えばいろいろな意味で非常にもろい組織でした。過去5社の経営のうち1社はそこそこ順調に進み、最終的に通信事業とブライダル事業の2つの売却に成功。その後はきれいに解体して、ブライダル事業を売却した会社のコンサルティングとして、1年ほど業務に携わりました。
ほかの4社は何ともいまいちな、会社としても人としてもパッとしない経営者という感じでしたが、両方の面を見れたおかげで、非常に大事なことを再認識することができました。
ありきたりで当たり前なことですが、「人は一人でできることはたかが知れている」ということですね。これは「何処まで目指すのか」にもよりますが、頭ではわかっていても、実際に経験しなければ、自身の腹に落ちることはなかったと思います。
壁の向こう側を見れる人
壁の向こう側を見れる人と、見れない人がいます。その違いは非常にシンプルです。「やり続けられるかどうか」ですね。私が思うにテクニックに頼りすぎる人は、初めてのことでも案外すんなりできてしまったりするせいか「地道とか継続」をきらう人が多いような気がします。小手先のテクニックって、実はもろくて安定しないんですよね。
私も20代の頃は、テクニックに頼るタイプでした。しかし年を重ねるにつれて改めて気付いたことがあります。それは継続、つまり「やり続ける力」ですね。壁の向こう側を見る秘訣は継続できるかどうか。これに尽きます。
壁の向こう
壁をハンマーで壊すとしましょう。ハンマーで壊すという条件は変えられません。目の前にあるのは、とても固くて分厚い壁。わかりやすくお金に例えますね。壁の向こう側に「10億円」。ハンマーの重さは約20キロ。さて「やるかやらないか」。ここからが問題。ここで迷ってやらない人が何人か出てきます。
「10億円か……でもあんな固そうな壁、分厚そうだし壊せるわけがない。できなかったら時間の無駄になるからやめておこう。」
これは論外ですね。壁の向こうは一生見れないと断言できます。やらないわけですから壁は壊れるわけがありません。せめてやり始めないと話になりません。
ちょっと面白いのですが、こういった人の思考を一瞬で変える方法があります。それは「〇〇回叩けば壊れるよ」と教えてあげることです。何回叩けば壊れるかなんて誰にもわかりません。ですが不思議なのは、仮に到底厳しそうな回数だったとしても、「何回で壊れる」とわかると真剣に考えてしまうんですね。
たとえば「1000万回叩けば確実に壊れるよ」と言われれば、「1000万回か、1日何回叩けるだろうか」と計算しだすわけです。面白いですよね。
ですが落とし穴もあって、最初の「壊せるわけがない」という思考は、頭の片隅に残っているんですね。だから「1000万回叩くには、1日〇〇回叩いて……」と真剣に計算したにも関わらず、ちょっと予定からそれたり、遅れたりすると「やっぱりできるわけがない」となって諦めてしまうんですね。
もったいないですよね。やり続ければ必ず手に入るのに。
あと300回
実際のところは「何回叩けば壊せるか」なんて誰にもわかりません。だから教えてくれる人はいません。過去の経験値から何回叩けば壊せそうかくらいは見えるかもしれませんが、それも多くの挑戦と失敗のもとに蓄積されたものです。
わからない壁の厚さ。いったい何回叩けば壊れるのか。誰にもわかりませんが、壁の向こう側を見れる人と見れない人の違いは「ハンマーであと300回叩くか叩かないか」の違いだけだと思うんですよね。もしも今やっていることがうまく進んでいないのなら、やめてしまう前にあと300回だけ叩いてみましょう。案外簡単に壊せるところまできているかもしれませんよ。